小説『浅間山ろく玄鳥記』シリーズ
『1 闇夜の雪』
時は江戸安政の頃。中山道沓掛宿の近郊を日暮れ時に一人歩む玄兵衛の背に、そのよく知る暗い匂いに満ちた殺気が、黒い塊となって迫ってきた……。
明治以降、清浄なる別荘地として知られてきた軽井沢界隈も、当時は中山道筋・浅間根腰の三宿〈軽井澤・沓掛・追分〉と称される、遊女・飯盛女が袖引く繁華で猥雑な宿場町であった。
玄兵衛はこの三宿の地で女たちに小間物を売り、時には貧窮の故に娘を売る人々の絶望を〈女衒〉として引き受けながら、沓掛の寓居で心静かに暮らしていた。
だが、貧農の娘・おみつの身売りの手配を機に、玄兵衛の過去の因業に関わる人々の生が、江戸から上州高崎、そして碓氷を越えた浅間三宿の地を舞台に交錯し始め、その運命の糸はやがて誰もが思いも寄らぬところへと手繰られることになる——
今もなお、軽井沢の基底に伏流している浅間根腰の三宿の風土。これを小説世界に再現し、寒冷で火山性の貧しい土壌に覆われた過酷な地に生きる人々の情と、たくましくも、時に哀しい生き様を見つめる『浅間山ろく玄鳥記』シリーズの第1弾。
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舞台
(江戸時代の浅間三宿の推定地図 『浅間山ろく玄鳥記1 闇夜の雪』より)
江戸時代の後期、安永から天明の頃の軽井沢界隈が、この物語の舞台です。
その頃の軽井澤・沓掛(中軽井沢)・追分は、浅間根腰の三宿と称される宿場町でした。
今でこそ、清浄なる美しい別荘地として知られる軽井沢一帯ですが、その頃は、飯盛女(遊女)がたむろう、繁華で猥雑な町で、川柳に〈軽井澤〉といえば、飯盛女を意味したほどだったと伝えられています。
その浅間根腰の三宿のうちの沓掛宿に暮らすのが、主人公の玄兵衛です。
時代背景
田沼意次が実権を握る頃、世は退廃の風に流れていたと伝えられています。
その風情は、例えば、着るものにも現れ、長くゆったりと垂れ下がる裾に、紐が遊ぶような、緩やかな服装が流行していました。
その様子も、物語の中に垣間見ることができます。
なお、田沼時代は、退廃の一端としての賄賂政治の時代であったと一般には言われています。
けれども、果たして田沼意次一人によって世の風潮までをも醸成できるのか、という疑問を呈した研究者がいました。
『田沼時代』(岩波文庫)を著した、辻善之助です。
田沼時代についての資料に基づく客観的な評価を目指す姿勢に加え、当時のエピソードを追うだけでもなかなかに面白い名著です。
登場人物
現代の軽井沢は、江戸の頃からそこに暮らす地元の方々や、近隣の市町村から仕事にやってくる方々、他所の土地からの移住者、そして、全国からの別荘族や観光客がいり混じる町です。
江戸の頃もまた、東海道に次ぐ往来の頻繁な中山道筋の宿駅として、外来の人々で大いに賑わいました。
地元で代々旅籠屋を営む人々、近隣の農村から宿駅のお役目を果たしにくる人々、江戸から流れてきた人々、そして、街道を行き来する人々が混在するのが宿場町です。
今も昔も、さほど変わらない社会構成のようです。
こうした軽井沢の社会構成の中に、物語は進みます。
なお、物語中には、現代の軽井沢の地元の方々をモデルにした人物にご登場いただいています。
軽井沢に転居して以来、大変お世話になった方々ばかりで、そういった皆様の存在無くしては、今回の小説を書くことはありませんでした。
この場を借りて御礼申し上げます。
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