このところの軽井沢は霧に包まれることが多い。
窓から眺める森が次第に濃くなる霧に沈み、輪郭も色も失い、それでもなお全てがそこに存在する様は、軽井沢でも随一の風景だと思っている。
そんな時の散歩道もまた、その先は霧の中に消える。知っていると思った道も、景色が霧の中に輪郭を失う時には知らない道のようになる。その道端に滲み出るように姿を現す花々は、その朧げな姿に反して何やら印象深く目に映る。
なんの変哲もない鉄柵にからむあけびの花。
木立の中にぼうと光る白躑躅。
ふと、軽井沢での大切な出会いのいくつかを思う。
行先の定かでない道すがら、ぽつりぽつりと思いがけず、けれどもどこかで予感していたように姿を現す。そしてやがては霧が晴れ、陽の光が戻ってきた時、見慣れた道が再び姿を現す。霧の間にもしや別の道に入れ替わっていたとしても、それとは気づかず意気揚々と歩いていく。
さて、今この道はどの道なのだろうかと思ったところでわかるはずもなく。ただ知っている道に戻ったような気がして、少しばかり早足になってみたり。